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中枢神経障害による手指、上肢の麻痺に対する
 mesh globe elwctrode 刺激療法


西野克寛先生  公立角館総合病院神経外科 診療部長


 一般的なリハビリでは改善しない6〜12ヵ月以上続く神経脱落症状に対して、神経系の潜在的な可塑性や機能代償性に積極的に働きかねて、機能回復を引きだそうとする手法の試みがなされてきており、restorative neurology(機能回復神経学)と称されている。NGF-inducer など神経繊維連絡の再構築を来す可能性のある薬剤を投与するもの、電気刺激、神経移植などがあげられる。

 現在、私どもの施設で使用しているEMGE(electromesh glove electrode)もその1つである。年余を経過し常識的に改善が期待できないとされる中枢神経損傷後の上肢運動麻癖に対して、持続する随意的な運動を回復しうる点では唯―の非観血的な方法である。1994年米国 Baylor医科大の Dept of Restorative Neurology and Human Neurobiology元教授のDr.Dimitrijevic が考案したもので、その基礎的根拠の一部は Lundbergらのサルでの実験で、脊髄後根の切断で巧緻運動障害が誘発され、その中枢断端の刺激がそれを改善した観察に基づいている。その臨床試験の報告でも、脳卒中、頭部外傷や頚髄損傷による手の巧緻運動障害例で、有効性と安全性が確認されている。EMGEの開発により、それまでの四肢の粗大筋の麻癖で証明されてきた spinal premotor center theory 2)に基づく治療の手指への応用が可能になったといえる。

 この方法は、低周波神経刺激法の1つであるが、その刺激電極と刺激の protocolが特徴的で、これが著効の要所と思われる。原法ではEMGEを患側の手に装着し、2つの端子を、前腕末梢につけた2個の電極を結んで、FESと異なり、遠位部を陽極、近位部を陰極として、two channel stimulatorで交互に刺激をする方法である。刺激は50Hz、パルス幅 300msecを用いているが、波形などが効果に影響するという印象はない。刺激の protocolは5段階からなり、最初の刺激を sensory subthresholdの強さで開始するのが重要であり、これが回復の成否を決めるといっても過言ではない。治療の開始時にこのことを家族や患者に十分説明して、理解を得ておく必要がある。しばしば、患者が最初の刺激の設定を物足りなく思い、motor thresholdまで上げてしまい麻癖の回復が得られないことがある。通常、sensory subthresholdとsensory thresh‐oldでそれぞれ2週ずつで、刺激強度を上げていき、さらに motor thresholdで12週刺激してから、その後も24週閲、刺激強度をあげて刺激を行う。

 最初の2段階は、指や腕関節などの動きを引き出す段階であり、第3段階以降は筋力の trainingないし麻輝筋の再学習の段階であると考えられ、各々の目的が異なっている。刺激を中止しても回復した機能は維持されるが、個々の症例では、適宜、motor thresh01dの刺激を継続する方がよいかもしれない。全経過リハビリと併用しており、また必要に応じて、四肢近位部の motor thresholdの利激の追加がさらに改善をもたらすのを経験している。改善した機能は、基本的には維持されるが、刺激を中止すると患肢無視や筋肉の易疲労性などを訴える例もあり、経過をみて症例により長期に続けたり、機能維持のためにリハビリを続けることが有用であろう。

 当科で初期に本法を試みた対象は年齢が11〜65歳であり、画像診断で運動野に高度の病変が見られない7例で、発症後の経過期間は1年4ヵ月以上が4例、6ヵ月が2例、3ヵ月が1例であった4)。他院からの紹介例では、1ヵ月のリハビリで効果のなかった症例とした。治療効果は、pintch、grasping、および腕、肘、と肩関節の active ROMで評価した。7例中6例で ROMの改善がみられ、1年4ヵ月以上の4例中2例、3ヵ月と6ヵ月の1例ずつで grasping、pintchの改善が見られた。これらの改善は、sensory subthresholdで刺激を開始すると、数分ないし数日後から観察される急速な変化で、著者らは病変の広がりと神経刺激初期の反応でこの治療の著効例を選別できるのではないかと考えるに至っている。慢性例では通電により細胞外液の陽、陰イオンの分布を急速にかえて、筋収縮に適正な環境にするためと指摘されている。その他回復の機序としては spinalpremotorcenter(Rexed3−4)や感覚野の関与が示唆されている。実際20mAの glove装着時の刺激の効果は、正中神経刺激時の体性感覚誘発電位の記録とほぼ同様という。麻痺側の上肢の無視傾向の軽減、刺激後上肢の筋緊張低下がみられ、腕関節で伸筋群の筋電図の振幅の増加が上腕二頭筋の緊張増加を伴わないでみられることが報告されている。 その後当科で新たに経験した21例(慢性脳卒中19例と頚随損傷の2例)での3日間の短期刺激の成績では同様な成績が得られており、pintchが可能になった例は11例(窪症脊髄損傷2例を含む)ngrasping改善例は14例であつた。本牢、Tarkkaが報告した single channel刺激での二重盲検法の成績では、運動障害と感覚障害の改善は63%であったという。

 有効例の特徴としては、筋萎縮や関節の変形がなければ、発症後の経過期間は無関係であり、CTで広範な運動野や内包の損傷のない症例、多くは Brunnstromの stage3以上の症例であった。しかし、Brunnstromの stage2の1例も含まれており、頚髄損傷の軽症例2例も著効を示した。今後、さらに症例を重ねて検討する必要がある。したがって、軽症例はよい適応であるが重症例では、有効性を予想することは刺激前には困難であり、3日ないし14日間の sensory subthresholdの刺激を行い、その間の改善の有無をみて、protocolの最後まで行うかどうかを患者と相談しながら決めている。
 
 以上、手の巧緻運動障害に対する mesh glove electrode法の方法と適応などについて、Dimitrijevicからの直接指示された点も含め、自験例を踏まえて報告した。通常のリハビリで効果があがらなかった例の中に、この方法の responderが存在する可能性があり、FESの選択前に試みてよい方法と思われる。


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